象の耳 ~夏季号~ 奈良岡朋子
2023年07月01日
2023年7月1日
今年の春は寂しかった。
ひそかに憧れ敬愛した女優・奈良岡朋子さんが、去る3月23日(木)22時50分、肺炎のため東京都内の病院で逝去した。
93歳だった。
宇野重吉さん亡きあと、劇団民芸の代表として最期まで演劇界を牽引した、彼女の笑顔やナレーションや名優ぶりが偲ばれる。
何十年前になるだろうか、この方の存在を知って目からうろこが落ちた。
日本にこんな女優がいたなんて誇りに思うとともに、心底から敬愛した。
今年の桜は東京の開花が一番だったのも、逝く奈良岡さんを、桜の花がお見送りしたかったのかもしれない。
その奈良岡さんは生前、亡くなった後に公開するためのコメントを遺していたという。
60年を超える女優生活で多くの芸能仲間たちと親交を深め、先輩からは愛され後輩たちからは慕われた。
ライフワークとしていた一人語り「黒い雨―八月六日広島にて、矢須子―」は珠玉の作品だ。
奈良岡さんの生前のメッセージは次のようなものであったという。
掲載させていただく。
「新たな旅が始まりました。旅好きの私のことです、未知の世界への旅立ちは何やら心が弾みます。向こうへ着いたらすぐに宇野(重吉)さんを訪ねます。もう一度あの厳しい演出を受けたいと長い間願ってきました。でもね、宇野さん、私はあなたよりずっと長く生きて経験を積んできましたからね、昔のデコじゃないですよ。」
『デコ、お前ちっとましになったな』と言われたくて、これまで頑張ってきたんですから。
腕がなります。
杉村(春子)先生とももう一度同じ舞台を踏みたかった。
どんな役でもいいからご一緒したい。
ワクワクします。
両親にあいさつするのは二、三本舞台をやって少し落ち着いてからにします。
それからは裕ちゃん(石原裕次郎)や和枝さん(美空ひばり)と思いっきり遊びます。 これが別れではないですよ。いつかはまたお会いできますからね。
それでは一足お先に失礼します。皆さまはどうぞごゆっくり…」。
(完)
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