~春季号~ ウルグァイ大統領“エル・ぺぺ”
2014年04月01日
ウルグアイは、南アメリカ南東部に位置する共和制国家である。ブラジルとアルゼンチンと国境を接しており、南は大西洋に面している。スリナムに続いて南アメリカ大陸で2番目に面積が小さい国である。首都はモンテビデオ。 2012年のGDPは約494億ドルであり青森県とほぼ同じ経済規模である。 ウルグアイはチリに続いてラテンアメリカで2番目に生活水準が安定している国であり、政治、労働の状態においては大陸で最高度の自由を保つと、ウィキペディアにある。
エル・ペペ
このウルグァイの大統領はホセ・アルベルト・ムヒカ・コルダノという。 彼は貧困家庭に生まれ、家畜の世話や花売りなどで家計を助けながらも、軍事政権打倒に奔走。2010年3月、ついに第40代大統領に就任した。 愛称は“エル・ペペ”。愛読書はセルバンテスの『ドン・キホーテ』。趣味は花の栽培という。 彼の個人資産は、車ワーゲン1台のみで、大統領公邸には住まずに、首都郊外の質素な住居に暮している。また、給与の大部分を慈善財団に寄付し、月千ドル強で生活しており、「世界で最も貧しい大統領」として知られている。
リオ会議
2012年6月20日から22日までの3日間、ブラジル・リオデジャネイロにおいて、Rio+20 地球サミット2012 (国連持続可能な開発会議)が開催された。188ヵ国3オブザーバーの97名の首脳と多数の閣僚級を含む約3万人が参加。「持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済」と「持続可能な開発のための制度的枠組み」をテーマに各国首脳が演説をした。 リオ会議(Rio+20)は地球環境の未来を全世界で決めて行く会議である。しかし各国首脳は自分のスピーチを終わらせたら、一人一¬人と議場から消えて行ってしまい、ウルグアイのような小国の大統領は最後の演説者となっていた。 彼のスピーチの時にはホールに¬はほとんど誰もいない。そんな中、カメラの前で残したスピーチは、その前まで無難な¬¬意見ばかりをかわし合う他の大統領とは打って変わって、赤裸々に思っていることを口¬にしたものだった。世界で最も貧乏な大統領と言われているエル・ペペが世界に¬対¬して語ったメッセージ。それは経済の拡大を目指すことの問題点を明確に指摘したのだった。日本の報道機関は一切報じなかったそのスピーチを、日系人の打村明氏が全文翻訳し公開した。
打村明氏
打村明氏は、中南米コスタリカ生まれ。日本人の父とチリ人の母を持つ日系人である。父の仕事の関係で、3年ごとにパラグアイ、ボリビア、エクアドル、エルサルバドル、日本、スリナム、チリ、そしてまた日本へと引っ越しを繰り返してきた。現在は横浜在住。海外日系人協会のオフィスで日本財団日系留学生の活動支援担当を行っている人物である。 その打村明氏が翻訳した“エル・ペペ”ことホセ・アルベルト・ムヒカ・コルダノ大統領の演説はこういう内容だった。
演説内容
「会場にお越しの政府や代表のみなさまありがとうございます。 ここに招待いただいたブラジルとディルマ・ルセフ大統領に感謝いたします。私の前にここに立って演説した快きプレゼンテーターのみなさまにも感謝い たします。 国を代表する者同士、人類が必要であろう国同士の決議を議決しなければならない素直な志をここで表現しているのだと思います。 しかし、頭の中にある厳しい疑問を声に出させてください。午後からずっと話されていたことは持続可能な発展と世界の貧困をなくすことでした。 私たちの本音は何なのでしょうか?現在の裕福な国々の発展と消費モデルを真似することでしょうか? 質問をさせてください。ドイツ人が一世帯で持つ車と同じ数の車をインド人が持てばこの惑星はどうなるのでしょうか。 呼吸するための酸素がどれくらい残るのでしょうか。同じ質問を別の言い方ですると、西洋の富裕社会が持つ同じ傲慢な消費を、世界の70億〜80億人の人が消費できるほどの原料がこの地球にあるのでしょうか?可能ですか?それとも別の議論をしなければならないのでしょうか?なぜ私たちはこのような社会を作ってしまったのですか? マーケットエコノミーの子供、資本主義の子供たち、即ち私たちが間違いなくこの無限の消費と発展を求める社会を作って来たのです。マーケット経済がマーケット社会を造り、このグローバリゼーションが世界のあちこちまで原料 を探し求める社会にしたのではないでしょうか。 私たちがグローバリゼーションをコントロールしていますか?あるいはグローバリゼーションが私たちをコントロールしているのではないでしょうか? このような残酷な競争で成り立つ消費主義社会で『みんなの世界を良くしていこう』というような共存共栄な議論はできるのでしょうか?どこまでが仲間でどこからがライバルなのですか?
このようなことを言うのはこのイベントの重要性を批判するためのものではありません。その逆です。我々の前に立つ巨大な危機問題は環境危機ではありません、政治的な危機問題なのです。 現代に至っては、人類が作ったこの大きな勢力をコントロールしきれていません。逆に、人類がこの消費社会にコントロールされているのです。私たちは発展するために生まれてきているわけではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです。人生は短いし、すぐ目の前を過ぎてしまいます。命よりも高価なものは存在しません。
ハイパー消費が世界を壊しているのにも関わらず、高価な商品やライフスタイルのために人生を放り出しているのです。消費が社会のモーターの世界では私たちは消費をひたすら早く多くしなくてはなりません。消費が止まれば経済が麻痺し、経済が麻痺すれば不況のお化けがみんなの前に現れるのです。 このハイパー消費を続けるためには商品の寿命を縮め、できるだけ多く売らなければなりません。ということは、10万時間持つ電球を作れるのに、Ⅰ千時間しか持たない電球しか売ってはいけない社会にいるのです!そんな長く持つ電球はマーケットに良くないので作ってはいけないのです。人がもっと働く ため、もっと売るために「使い捨ての社会」を続けなければならないのです。 悪循環の中にいるのにお気づきでしょうか。これはまぎれも無く政治問題で すし、この問題を別の解決の道に私たち首脳は世界を導かなければなりません。 石器時代に戻れとは言っていません。マーケットをまたコントロールしなければならないと言っているのです。 昔の賢明な方々、エピクロス、セネカやアイマラ民族までこんなことを言っています 「貧乏なひととは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」 これはこの議論にとって文化的なキーポイントだと思います。国の代表者としてリオ会議の決議や会合にそういう気持ちで参加しています。 私のスピーチの中には耳が痛くなるような言葉がけっこうあると思いますが、みなさんには水源危機と環境危機が問題源でないことを分かってほしいのです。 根本的な問題は私たちが実行した社会モデルなのです。そして、改めて見直さなければならないのは私たちの生活スタイルだということ。 私は環境資源に恵まれている小さな国の代表です。私の国には300万人ほどの国民しかいません。でも、世界でもっとも美味しい1300万頭の牛が私の国にはあります。ヤギも800万から1000万頭ほどいます。私の国は食べ物の輸出国です。こんな小さい国なのに領土の90%が資源豊富なのです。 私の同志である労働者たちは、8時間労働を成立させるために戦いました。そして今では、6時間労働を獲得した人もいます。しかしながら、6時間労働になった人たちは別の仕事もしており、結局は以前よりも長時間働いています。なぜか?バイク、車、などのリポ払いやローンを支払わないといけないのです。 毎月2倍働き、ローンを払って行ったら、いつの間にか私のような老人になっているのです。私と同じく、幸福な人生が目の前を一瞬で過ぎてしまいます。 そして自分にこんな質問を投げかけます。これが人類の運命なのか?私の言っていることはとてもシンプルなものですよ。発展は幸福を阻害するものであってはいけないのです。発展は人類に幸福をもたらすものでなくてはなりません。愛情や人間関係、子どもを育てること、友達を持つこと、そして必要最低限のものを持つこと。これらをもたらすべきなのです。 幸福が私たちのもっとも大切なものだからです。環境のために戦うのであれば、人類の幸福こそが環境の一番大切な要素であるということを覚えておかなくてはなりません。ありがとうございました。」
終わりに
この演説を耳にし、目にして立ち止まり、考えさせられた人間は多いと思う。発展とは何か?豊かさとは何か?幸福とは何か? なおこのリオ会議についてはネットでも報じられていますので、今一度詳細のご一読をお勧めします。 完 (M・F)
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